渡部家の
信州の旅
かけある記
(2005年5月3日〜5日)
 
 10数年来、季節の移り変わりごとに足を運び、我が家の「別宅」でもある「ロッジ松の実」に宿を取り、3日、4日、5日の三連休、風薫る花の信州を駆け巡った。その「楽しみ方」をたどる…。
 
◇ 残雪と新緑と山桜
 
 午前5時過ぎ横浜を出発、1日目がはじまった。相模湖インターまで飛ばし、中央高速で北アルプスのすその安曇野へ。豊科インターをおりて、北アルプス、安曇野などを撮った山岳写真家・田淵行男記念館に一歩を記す。「初冬の浅間山」「夕暮れの常念岳」などモノクロ山岳写真の迫力に、「オレもこんな写真を撮りたい」と、できもしない決意を胸に刻んだ。その足で、つたのからまるチャペル風本館が顔の「碌山美術館」に。ゴールデンウィークにもかかわらず人影はまばら。後で宿主に聞いたところ、長野の美術館はどこも赤字で、黒字なのはわずか数ヶ所の美術館だけという情報も。いまは小学校にさえぎられて、バックの北アルプスの山々は途切れ途切れ。かなり前の「碌山美術館」を知る妻は、「後ろの山々が良かったのに」と残念がる。
 大町から白馬に向かう途中の仁科三湖を楽しむのが1日目のプラン。木崎湖は期待はずれだったが、新緑が映える付近の山々のところどころの山桜は、都会のソメイヨシノとは違い美しい。ピンク色に染まる山桜が並ぶ中綱湖畔の風景に写欲がわいた。青木湖畔のログハウス風の店で新鮮野菜たっぷりの昼食をとり、近くを走りぬけるJR大糸線のカラフル列車をみながら、午後のひと時をすごした。
 5月の風がさわやか、田園風景が広がる穂高町、松川村で一息。本道からそれて、農道に入る。水を張った田んぼに残雪の常念岳、燕岳などを映し出した風景にカメラを向けた。
 白馬へ車を走らせた。目に飛び込んだ五竜岳のカタクリ祭りの看板に誘われ、本道をそれた。付近は春スキー客の車でごった返し断念。オリンピック道路を走り長野市街地に。かつて信玄と謙信の川中島の合戦を繰り広げた古戦場を左に見て千曲川を渡る。松代藩の城下町を抜けて真田町に至り、嬬恋方面にハンドルを回した。菅平に来たときは必ず寄る渋沢温泉で汗を流した。
 タラの芽、山ウドの芽、コシアブラなど山盛りの山菜天ぷらがどーんと出た。手作り小鉢が色を添えた。ビールと信州ワインでのどを潤し、絶品に舌鼓しながら、明日の行き先を語った。予約の際、メールに「山菜を」と書き込んだ勝手な注文にこたえてくれた、宿の心づくしが憎い。妻も娘も、同宿客も歓喜。

          
                   青木湖のさくら
つたのからまる碌山美術館
北アルプスを映し出す安曇野
青木湖から白馬の残雪をみる 春爛漫の中縄湖
 
 
◇ 桃色の絨毯の丹霞郷
 2日目は北信濃路コース。前日に足を運んだばかりという宿主の話しに乗り「花まつり」開催中の牟礼村へ。飯綱山、まだ雪が残る黒姫、妙高の山々をバックに、約1500本の桃木が一面に広がり、桃色絨毯のような絶景が目に飛び込んだ。娘はこの素晴らしい丹霞郷をスケッチ、妻と私は周辺を散策。「とってよいのは写真だけ」の標語を思い浮かべながら、仲良くシャッターを切った。
 「まだ時間がかかる」と絵筆を放さない娘を置き去りにして、袖之山のしだれ桜へ足をのばした。樹齢300年以上の重みを感じさせる老木。その枝振りを前に妻もデジカメでいどむが、大樹の迫力には太刀打ちできない。もう一つの楽しみだった樹高20メートルの巨木・地蔵久保の「大山桜」は、すでに花はなく残念無念。
 昼食は、信濃町の田んぼの路傍に構える蕎麦店の天ざる。自家製そば粉を石臼で挽いたソバが自慢。三度目の来店で馴染み。一度目、二度目は店も小さく、5月の連休でも地元の人だけというところで、わが家族は「穴場」にしていた。今回は、店内を広げ、観光客が行列するほど盛況。約45分もまたされたが、この不満を解消したのは、山菜と地元野菜の山盛り天ぷらとソバの味。立腹が満腹に変った。
 栗の町・小布施。娘が楽しみにしていた栗入りソフトクリームは、人の多さと渋滞と駐車場不足でお預け、次の旅の楽しみに残す。小布施は昨年もきたが雨だった。北斎館もそこそこに、雨に打たれながら一升瓶の地酒を買った。宿主と一献傾けながら写真談義をした思い出した。今回は、地酒をぶらさげることができなかった。
 白い花びらをつけたリンゴの木をくぐりぬける広域農道を走り、須坂市の版画美術館に車を止めた。公開中の画家シャガールの版画展を楽しむ。隣接の「世界の民族人形博物館」と、須坂町の武家屋を保存した歴史建造物にも足跡を残す。宿への帰路の途中にあるひなびた国民宿舎・保科温泉で一日の疲れをほぐした。夕飯は焼肉三昧、冷えたビールがうまかった。







                 丹霞郷のさくら
菜の花と桃の丹霞郷
丹霞郷の桃の花
300年の年輪を重ねたしだれ桜
丹霞郷の風景
須坂の版画美術館 須坂の武士の家
 
 
柏餅と団子を買って端午の節句
 来るまでは待ち遠しく、来て見ればつかの間、楽しかった旅も最終章。朝食にはツクシとコゴミが和え物が出て、娘は始めて食べた。手作りジャムとチーズの燻製を土産にもらい、名残り惜しんで宿を後に。菅平湖の山桜に別れを告げ、友だちとジャズコンサートに行くと胸を躍らす娘を上田駅まで運んだ。前日立てた別所温泉の安楽寺にある国宝・八角三重塔をみて、見返りの三重の塔で知られる青木村の大法寺、修那羅峠の石仏群を撮る計画は、上田駅でご破算にした。
 「夫婦旅」と洒落た。上田で柏餅と団子を買った。そう、5日は端午の節句。妻の「行きたい」の一言で信州新町美術館に直行。妻によると、美術館案内書で地元作家の作品が素晴らしいと紹介されたことから「行きたい」気持ちになったそうだ。しかし、期待した地元作家の作品はなく、小学校国語教科書表紙絵でも知られる藤岡牧夫の「絵本と原画」展に変わっていた。カヌーイストの野田知佑と共著の絵本「笹舟のカヌー」の作品群と動画は良かった。セザンヌを日本で初めて紹介した横浜出身の画家・有島生馬が創作活動の拠点としたという、鎌倉から移築・再建したコロニアルスタイルの建物と遺作品を眺め、同居しているのはミスマッチではないかと思う町立化石博物館に足を入れた。これも小さな町のなせることか。博物館では、地元出身の故・西沢勇氏が世界各地から収集した約6000点にも及ぶ化石などを展示。数少ないであろう訪館者の私たちに、若い学芸員が450万年も前の海底の化石と胸を張った。最近、隣の八坂村で発掘されたヒラメの化石を一生懸命解説、「この地域は昔海だった」とうれしそうだった。
 美術館横の土手で一服。犀川の流れを見ながら食べた柏餅と胡桃団子の味は格別。川沿いにへばりつく新緑の里山風景をわき見運転しながら、ふたたび安曇野へ。
 訪れるつど、いのちの輝きに満ちた子どもたちを描いた絵に、やさしい気持ちになる「安曇野ちひろ美術館」で、ちひろが反戦への思いをこめて描いた「戦火のなかの子どもたち」をみた。戦争につながるあらゆる動きを許さず、憲法9条と平和を守ることの大切さを決意。約850キロメートルを記録した車のメーターをみながら、信州の旅は終わった。



田淵行男記念美術館
菅平湖の山桜
信州新町美術館 菅平の県道34号線沿いの桜
信州新町の里山風景
安曇野ちひろ美術館 安曇野ちひろ美術館の庭